<コンセプト>
2つの空間軸と⽴体的回遊空間による多様な居場所の創出
旧体育館のフラットでオープンな空間に対して、新たに、北側2階レベルから南側グランドへの景観軸と、⻄側アプローチ道路から東側2階レベルへの動線軸を設定しました。2階の外周に⽴体的な回遊空間を曲線的に設け、2階と1 階の広場(ジムラボ・アゴラ)を、客席、ベンチ、ステージ等の様々な空間要素を持った⼤階段(ジムラボ・ステップス)や螺旋階段で繋ぐことで、多様な居場所を創出し、利⽤者の⾃然な交流と共創が派⽣する空間を計画しました。
外壁の開放による緑豊かなキャンパス環境との連続性の確⽴と内部機能の可視化
1 階南側と⻄側壁⾯に開⼝部を設けることで、空間を外に開き、緑豊かなキャンパス環境との連続性を確保すると同時に、内部の機能や活動を可視化する計画をしました。特に北側2階から南側グランドへのビスタと景観軸、⻄側エントランスの開放によるGYMLABO機能の可視化には留意しています。このような空間の連続性と開放性が実現できた背景には、旧体育館の優れた構造デザインと耐震性能にあります。旧体育館の構造形式は⼀⾒、⼀般的な体育館の断⾯によく⾒られる蒲鉾型の鉄⾻屋根に⾒えますが、屋根を⽀える南北の⽀持部分はRCのフライングバットレス(⾶梁)構造となっており、当時としてはとてもユニークな構造的特徴を持っています。この構造形式により、南北のバットレス間の壁が耐震壁ではなかったため、新たに開⼝部を設けることができました。また、⻄側の妻⾯も⼗分な耐震強度を持つRCラーメン構造であったため、1階の4スパン分の壁を撤去することができ、新たな開⼝部による透明性の⾼いエントランス空間が実現できました。
九州工業大学の歴史⾵⼟の特徴を踏襲した建築意匠デザイン
旧体育館は1965年に建設されました。これは九州⼯業⼤学記念講堂(1960年 清家清設計)や旧資料館(現鳳⿓会館・1961年 清家清設計)と共に、九州工業大学キャンパス内の建築物が、1909年開学当初の⾠野⾦吾設計による本館などの⽊造近代建築群から、1960年代の⾼度成⻑期において、RCと鉄⾻による現代モダニズム建築へ建て替えられていった転換期を象徴する重要な建築意匠であると解釈することができます。GYMLABOの建築意匠デザインにおいて、内部空間構成は、多様な交流と共創を誘発するために新しい⾮⽇常的な刺激のある空間を計画しました。⼀⽅で、外部意匠では旧体育館が持つモダニズム建築のデザインを極⼒オリジナルな形で踏襲するように⼼がけました。
デザインコンセプト 伊東啓太郎
建築デザインスケッチ 佐久間治
内在する黄金比から建築デザインへの展開
伊東啓太郎+佐久間治
建築デザインイメージパース
末廣龍樹、石塚直登
<内装デザイン>
フレキシビリティと配色
GYMLABOは、学⽣・教員・⼤学職員・企業会員・⼀般会員・地域住⺠など多様な属性の主体が使うことが想定されています。⾏われる活動も多岐にわたり、あらかじめ設計者が想定する以上の使われ⽅も現れると考えました。そこで、家具選定においては、レイアウトのフレキシビリティを最重要と考え、極⼒固定的にせず、動かせる家具を配置しています。また、照明についても、タスク照明はスタンドライトを主体とすることで家具の移動に追従できるようにしています。家具全体のコンセプトとしては、⼤学内の他の建物よりもずっと気軽に⼊り、ゆったりと過ごしやすい空間にすることを⽬指しています。天板が⽊、脚が⿊を基調としたデザインとすることで、カフェのような雰囲気としています。ソファーなどの⼤きな家具のファブリックには、キャンパスのいたるところに⽣える松の⽊の葉をイメージし、落ち着いたグリーンを⽤いています。⼀⽅で、スツールなどには明るい⾊を差し⾊として⽤いることで、全体が暗い雰囲気とならないようにバランスをとっています。
学⽣制作家具
GYMLABOには、既製品のみではなく学⽣のデザイン・制作による家具も導⼊しています。展⽰スペースのキューブ状のスツールは、組み換えで様々なレイアウトに対応することができます。受付カウンターの前⾯の装飾は、⽊をふんだんに使った縦格⼦となっており、GYMLABO全体の平⾯の曲線でも使われている⻩⾦⽐にちなんだフィボナッチ数列をデザインに取り⼊れています。いずれも九州工業大学⼯学部建設社会⼯学科建築デザイン研究室によるデザイン・制作となっています。作る段階から空間の使い⽅を考える、実践的教育の場としても機能しています。
サイン計画
館内のサインは建築デザイン研究室の学生が中心となってデザインし、学内の工作機を活用して制作、設置しました。GYMLABOのデザインの軸となっている黄金比をモチーフにユニークなサインが完成しました。
館内サイン:建築デザイン研究室+石塚直登
館内マップ本体:佐久間治+森直樹+合田寛基+コンクリート研究室 マップ:建築デザイン研究室+石塚直登
<空調設計>
⼤空間のおける空調の課題と提案
⼀般的な体育館では、空調機からの気流によるバドミントン等の球技への影響を防ぐため、エアコン等は用いずに換気のみを考慮することがほとんどです。GYMLABOはもともと体育館として設計されているため、快適な空間を実現するためには換気だけではなく、冷暖房に関する検討が不可⽋でした。GYMLABOでは、会議室等の閉ざされた空間は通常のエアコンを⽤いて冷暖房を⾏い、上部が吹き抜けとなっている中央部のジムラボ・アゴラでは床から0.15m/s 以下の低速で吹出す空調⽅式を提案しました。床からの吹出しは在室者の頭部の⾼さ(約1.7 m) に到達します。その間、熱エネルギーが消滅するまで在室者とゆっくり熱交換されるため、無駄なく快適な環境を作ることができると考えました。
提案した空調⽅式の性能評価
提案した床低速吹出し空調の冷房性能を評価するため、数値解析により3 次元の室内空気温度・気流に対する3 次元の数値解析を⾏い、2 台の従来型空調機を主⽞関に設置した場合の頭部の⾼さ(1.7 m)での室内温度分布と在室者の熱的快適感と⽐較しました。在室者の熱的快適感は、予想平均温冷感申告PMV(Predicted Mean Vote) を⽤いて評価しました。評価の結果、床置き型空調と床低速吹き出し空調の平均温度が34.9℃と27.5℃となり、提案した空調⽅式の有効性が確認できました。在室者の予想平均温冷感申告PMVについては、床低速吹き出し空調の場合も快適域内(-0.5 < PMV < +0.5)に制御できないものの、従来の床置き型空調を採⽤する場合に⽐べて在室者の熱的快適感が⼤幅に改善できることが分かりました。
データ解析・提案: 趙 旺熙+建築環境研究室